借金が残るから、廃業できない?

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Q.弊社の業績はずっと悪く、私も引退をしていてもおかしくない年齢です。しかし、廃業をしたら借金が残ってしまいます。
これまで無理をして続けてきましたが、もう限界を感じています。はたしてどうしたらいいのでしょうか。


私の廃業の定義は、「自主的に会社をたたむこと」です。
そのため清算に入った後、プラスで終えられる場合もあれば、マイナスになってしまう場合もあります。
後者の、廃業をしたら借金が残る場合、どうしたらいいかについて考えていきましょう。

決着は自主的につけるべき

たとえ借金が残る場合でも、自主的に会社をたたむべきだと思います。
痛みを伴いますが、決断を先送りしたところで問題の解決にはならないし、状況をより悪くしてしまうためです。

もしご相談をよせた社長が、自ら廃業をしなかったとしましょう。するとどうなるか。
いつか、ご自身が倒れるか、会社の資金が尽きて倒産をするか、のどちらかの結果となります。
これらの終焉は、突然おわりを迎える、激しく、痛々しい墜落になります。
このとき、社長には自分で状況をコントロールできる余地が残されていません。
よって、周囲の人々まで痛め、その報いが社長を襲うことになります。

資金繰りができなくなり、切羽詰まった社長は弁護士事務所に駆け込んだ。
多方から、多額の金を借り、支払うべき金を待ってもらっていた社長は、相手に対する支払いを拒絶した。
これまでの恩を仇でしたのだ。
支払いを待ってくれた取引先、金を貸してくれた知人、給料を遅配している従業員……
これまで味方だった人々を敵に変えてしまったら、地域にも業界内にももう社長の居場所はない。
さらに一人暴走していた社長は、妻や子供からすでに見限られている。
裁判所から免責を受けて借金や連帯保証の責任が無くなったところで、残りの人生を立て直すことはもう難しい。


無理をして行けるところまで行った先にあるのは、こんな結末です。
であれば、どこかで終焉を受け入れ、着地態勢に入ったほうがよくないでしょうか。

自己破産をするしかないのか 

会社継続を断念し、借金が残る。
「ならば自己破産をするしかない」 
これがほとんどの方の発想でしょう。

破産を裁判所に申し立てれば、諸々の手続きを経て、免責。借金の返済義務から解放されます。
一方、破産では裁判所が絡み、強制力をもつ取組のため、本人に残されたほぼありません。
それゆえ、巻き込みたくない人々に傷を負わせる結果になりがちです。
社長の手元に残せる資産もかなり小さなものとなります。


会社を廃業させて借金(その借金の連帯保証をしている)は残っているものの、破産もしていないという人が、実はいます。

もう潮時だと決心し、事業をやめた。
雇用は終了させ、仕入先の買掛金などの金融機関からの借金以外は返済した。
会社に残っていたわずかな金は、債権額に応じて銀行に分配した。

残った借金の多くは、代位弁済によって保証協会に移った。
もちろん自分が借金の連帯保証人になっている。
保証協会と話し合いがもたれ、資産状況等を聞かれ、家計表を提出した。
最終的には、毎月可能な範囲(1万円に満たない)での分割弁済に落ち着いた。



金融機関としては「破産して欲しい」というのが本音かもしれません。
ちびちびお金を払われるより、一気に不良債権を処理したいという都合もあることでしょう。
しかし、債務者(連帯保証人)たる社長にだって、破産する、しないの自由があります。

破産しない場合は、どうなるか?
債務が整理されないまま、ズルズルと引きずられることが起き得ます。
「銀行がそんなこと許すの?」と心配する方もいます。
別に許されたわけではありません。
ただ、事実上仕方ないし、経済的合理性としてもそうせざるを得なくなるということです。

もし、銀行が債権回収を求めて社長を裁判で訴えれば絶対に勝ちます。
でも、裁判に勝ったところで、相手に払える金がなければどうでしょうか。
差し押さえられる財産が無ければどうでしょうか。
わざわざ金と手間をかけて起こした裁判は無駄になります。
銀行としては、どうしようもない、という考え方をせざるを得なくなるのです。

破産を回避して、状況のコントロールをする

破産しないメリットはなんでしょうか。
ひとつは、心情的なところ。
一般に思われているほど破産のデメリットは大きくはありませんが、それでも、破産者になるということを受け入れたくない人がいて不思議はありません。

もうひとつは、顔の見える相手を害さないで済むかもしれないこと。
この事例では、取引先の買掛金などを先に払っていました。
これが破産手続きでは認められない点でしょう。
債権者や平等に扱わなければいけないというルールがあるなか、えこひいきをしているとされ。
破産管財人に取り戻されてしまうことがあるのです。

でも、同じ債権者といっても、仕事の現場にいた私たちからしたら、銀行と顔の見える取引先ではまったく違うわけです。
関係性、企業体力、業務上の役割……を考慮したら迷惑をかけたくない相手がどちらかは明白です。
取引先等は、今後も関係が続くかもしれない相手です。 

破産を回避するやり方は借金が残ることになるので、きれいな決着とは言えません。
しかし、破産しか選択肢がないと考えがちなところで、別の道もあることは知っておいてもいいかもしれません。

なお、この2つの道以外にも「経営者保証ガイドライン」を使った廃業というものもあります。
手元に残せる財産がより大きかったりと、破産と比べると、債務者側によりやさしい制度になっています。

借金の処理よりずっと重要な視点


私としては、一概に、どのやり方がいいとは言えません。
あくまで当事者の価値観やおかれた状況次第でしょう
「自己破産をするか、否か」でよく議論がなされますが、しょせん「どの道具を使うか」レベルの話だったりします。

散らかった状況をうまく片付け、次のステージに進むことがなにより大切です。

それがかなうならば、どの手法を選んだって間違いではないと言えるのでしょう。
そんなことよりも「これからの人生をどうするか?」なのです。

破産を考えるようになった社長に決定的に欠けているのは、この視点です。
本当に、借金のことしか頭の中になくなってしまうのです。

でも、借金の処理なんて今だけの話。
弁護士のところに行って破産を依頼をすれば処理してもらえます。

でもあなたのこれからの人生はどうでしょうか。
自分で立て直すしかありません。

生活をやり直すための軍資金は? 今後の収入源は? どこで暮らすのか? 誰と関係しながら生きるのか?
しっかりと向き合うべき問いは、こちらだと思わずにはいられません。

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