Q.会社で本業とは無関係の投資用アパート一棟を所有しています。
廃業をするにあたり、この不動産の処理についてアドバイスいただけませんか。
※この記事は、最後に類似の内容の動画があります。
中小企業が本業とは直接関係のない資産を持っていることはよくあります。
投資のためにアパートなどの収益物件を保有しているケースはその典型でしょう。
家賃があったから本業の赤字をカバーしつつ、なんとかこれまで持ちこたえてこれたという場合だってあるはずです。
廃業を決断した今、この不動産をどう扱えばいいか、を考えてみましょう。
回答の前に、もう一つ質問に答えていただかなければいけません。
「この不動産は、今後も手元に残したいものですか?」
イエスかノーで、進み方は大きく変わります。
依頼は複数の不動産業者にすべきか?
まず「この不動産はもういらない」という場合を考えてみましょう。
基本的には、売って換金すればいい、ということになります。
方針が決まれば、あとは売り方です。
買いたたかれるのはごめんです。
なんとか適正な金額で売りたいところ。
そのためのポイントは、普通の不動産売却と同じです。
信用のおける不動産業者を選ぶことや、売り急がないことなどです。
一般的に、買い取り業者(自社で所有権を取得)より、仲介業者に依頼して広く買手を探してもらったほうが、高値が付きやすいところです。
仲介業者については、複数の業者に依頼すべきか、という論点があるようです。
「一社だけに依頼すると手を抜く場合がある」
「複数に依頼して競い合わせたが方がはやく売れる」
複数説(?)の信奉者は、このようなことを言います。
でも私は、どちらかといえば反対の専属説(?)に立ちます。
複数の業者が動くと余計な混乱が起きがちだし、競争原理はおもったほどはたらきません。
それよりも、最初から信頼できる仲介業者をちゃんと選べばいいと思うし、万が一その業者がダメだったときは、契約を解除すればいいだけです。
会社所有の不動産は、個人の不動産よりも特殊なものになりがちです。
この相談のような一棟ものの収益物件であったり、工場であったり。そのような不動産の売却こなすスキルをもった業者を見つけたいところです。
そんなに売り急ぐ必要はありますか?
変わった不動産だと売却に時間がかかることがあります。
とにかく時間をかければいいとは思いませんが、売り急ぎは禁物です。
ところが廃業に着手すると、どうも「はやく売らなければいけない」というバイアスが働きやすい様子です。
「この不動産は売るのに時間が必要だから、一旦自分の名義にしたほうがいい」
かつて私にコンサルティングの依頼をしてくださった社長は、このように考えていました。
でも、そうでしょうか。
一旦個人の名義にしても、またすぐに売却するくらいならば、法人名義のまま売ったほうがマシでしょう。
個人に名義を変えるだけで、それなりのコストがかかってしまいます。
「すぐに不動産を手放して廃業を完了させなければいけない」
おそらくこのよううに考える方は、強迫観念を抱いてしまっているのでしょう。
廃業前のキャッシュがどんどん流出していく恐怖体験が背景にあるのではないでしょうか。
しかし、廃業の決断をして清算に入った今ならば、キャッシュの流出はほぼ止まっているはずです。
そうあるように、廃業のプロジェクトを運ばなければいけません。
営業をやめていれば、仕入も人件費も、もう必要ありません。
必要なランニングコストは固定資産税や決算関連の費用くらいでしょう。
こうなれば、じっくり腰を据えて不動産売却に臨めるはずです。
最後に、不動産売却で税金が発生するか否かは気にしておいてください。
過去に安く仕入れた不動産が、大きく値上がりしていると、税金も大きくなる可能性があります。
不動産を社長名義に移す方法
続いて「不動産を手元に残したい」という場合です。
素直に考えれば、会社から社長が不動産を引き継ぐことになるのでしょう。
会社と社長の間で売買を行う。
または、社長が会社をやめることで発生する退職金の一部(または全部)を、金ではなく、不動産という物で支払う(代物弁済)。
このあたりの方法がすぐ思いつきます。
ただ、本当に「個人に不動産を持たせるほうがメリットがあるのか」は、一度検討していただきたいところです。
先ほども申したように、不動産の名義を変えるには、手続きコストがかかります。
登記のための印紙代(登録免許税)や司法書士報酬、不動産取得税など。
これらはバカにならない額になることがあります。
法人をそのまま使う?
ここで発想を変えてみませんか。
「会社の法人格はそのまま残してみたら?」と。
事業をやめて、資産と負債をからっぽにして、法人格を消滅させる。これは正しい教科書どおりのやり方です。
しかし、現実としては、かならず法人格まで消滅させなければいけないわけではありません。
本業だけやめたうえで、資産や法人格を残すのも一手なのです。
ものづくりをしている「K製造株式会社」があった。
K製造株式会社は、不調の本業を廃止し、従業員の雇用を終了させた。
会社の財務内容として、収益用不動産と銀行からの借入が残った。
K製造株式会社は、法人格を消滅させるのではなく、不動産と会社をそのまま残すことを考えた。売上は、不動産投資からのリターンである。幸い銀行の了解も得られた。
本業を廃止しつつ、法人格を残したケースです。
あたかも、製造業から不動産大家業に転業したようなものです。
こういう廃業の仕方だってあるわけです。
実は、私のところに来た廃業の依頼でも、最終的に法人格まできっちり消滅させることになるケースは少数派だったりします。
このように法人格は残しておくほうほうが多かったりします。
不動産を手元に残すならば、会社に所有させ続ける方法も検討ください。
メリットとしては、わざわざ個人に不動産を移すことで発生する手続きコストが節約できます。
また、社長が亡くなった際の相続でも、いちいち不動産の名義を変更しないで済むようになる(不動産を持っているのは会社だから)など、諸々のメリットがあります。
もちろん会社なので、運営を続けるためには誰かが代表にならなければいけません。
しかし、事業をやっていた時と違い、やることはほぼ不動産などの資産管理だけ。
これならば会社に関与してこなかった配偶者や子供などでもできるのではありませんか。