Q.弊社はスタッフ15人の会社です。業界の未来の暗さや私の持病、子供が会社にいないことなどから廃業させることを決めました。銀行や顧客など、この決定を知らせなければいけない相手はたくさんいますが、誰から話をすべきでしょうか。
A.ところで廃業のことを知らせなければいけないのは、誰でしょうか。
基本は会社の利害関係者のすべてになります。株主、顧客、従業員、取引先、債権者(≒銀行)……などです。
情報と言うものは基本的に漏れ、そして広がるもの。
さらに廃業というセンセーショナルなニュースは、情報を知った相手の感情を強く刺激してしまいます。
漏れる、広まるという情報の性質をふまえ、「伝える順番」と「タイミング」を間違わないよう考えていきましょう。
「まず最初は従業員」がセオリー
誰から知らせるか。
小さな会社の場合、やはりともに仕事をしてきた仲間である従業員が最初でしょう。
「ある日、出勤の支度を終え、朝食を取りながらいつもどおり朝刊を読んでいた。そこに当社の破産の記事を見つけた」
自社の破産の話なのに、報道を通じてはじめて知った……という話を見聞きすることがあります。こういうのは、社長と従業員の関係上よろしくありません。
しかも破産と違って、廃業の場合、残務を片付けるため以後もたがいの協力関係が必要なのですから。
「聞いたよ。おたくの会社たたむんだってね」
(えっ、そんな話は知らなかったよ!)
こういう風に、従業員が外部の人間から廃業の事実をはじめて聞かされる状況を作ってしまうのもNGです。
「やってられない!」と従業員をキレさせてしまいます。
おわりの場面では、近い人から優先させるのが法則です。
やはり最初に知らせるべきは従業員です。
従業員にいつ告知するかも大切です。
「従業員には、廃業する1年前に伝えたいと思います」
たまにこういう社長がいますが、それでうまくいくでしょうか。(社長というのは廃業日を遅く設定する傾向があります。すると、従業員への告知から廃業までの時間が長くなります)
廃業まで1年もあると、従業員のやる気や集中力が途切れてしまってもおかしくありません。
途中で転職する従業員が出現し、仕事が回らなくなる状況になることも心配です。
従業員のために早めに知らせてあげたいという心づかいはわからなくもありません。
しかし、長すぎると歓迎しないアクシデントが起きがちです。
やっかいな外部の株主の存在
繰り返しますが、従業員ファーストがセオリーです。
ただし、株主が他にいる会社の場合はその通りにはいかないことがあります。
私は、オーナー企業を想定しています。
社長だけが唯一の株主です。もう少し株主の範囲が広いとしても、社長の配偶者や子供までです。
であれば、株主について気を配る必要はありません。
ところが会社によっては、株式がもっと広い範囲に分散しています(本来は株式の分散を避けるのがセオリーです)。
たとえば、取引先や従業員などまでが、会社の株主になっていることも……。
外部の株主がいるということは、株主決議をないがしろにしてはいけないことを意味します。
他の株主との合意なくして、社長が勝手に会社たたんでいくのはさすがにマズいはずです。
外部の株主がいる会社であれば、やむを得ず、従業員よりも先に株主に廃業を知らせなければいけません。
情報漏洩の懸念が増えるので、廃業企画のマネジメントの難度は高まってしまいます。
顧客から「もっと早く言ってくれよ」とクレームを言われたら?
セオリーに従うならば、顧客や取引先への告知は、従業員に知らせた後になります。そして、彼らに与える告知から廃業までの猶予期間も、従業員への告知のタイミングによってほぼ決められてしまいます。
私は、廃業の日から逆算し、従業員にはその2,3カ月に告知する予定を立てることが多いところです(ただし会社の状況によって長さは変わります)。
従業員のモチベーションや事務の処理に必要な時間などを考慮し、これまでの経験からこれくらいの期間がちょうどよいと感じています。
廃業の2カ月前に従業員に告知し、それからすぐに顧客や取引先に伝えたとしても、猶予は2カ月しかありません。
「これではとても時間が足りない」と文句を言われても不思議はありません。
あなたの会社が廃業することで、同じ商品を供給してくれる別の業者を探さなければいけなくなる顧客にとって、2カ月という時間は短すぎるかもしれません。
取引先にとっては、顧客を一つ無くすことであり、その売上減をカバーしようと思えば、かなりの時間が必要になることでしょう。
でも、仕方ないのです。
顧客や取引先の反応を恐れて、従業員への告知期間なども含めた全体のバランスを崩すわけにはいきません。
多少の不都合を強いてしまうことは避けられません。廃業でみんなにいい顔なんてできないのです。全員を満足させようとしたら、廃業なんてできません。
時間的猶予をまったく与えていないわけではない。
金や商品を届けるという約束を破るわけでもない。
それで十分はないでしょうか。
文句を言うヤツは、何をしたって文句を言ってくるものです。
銀行にはいつ言えばいいか?
残る主な利害関係者は、銀行をはじめとする債権者です。
士業の人やコンサルタント、さらには社長の中には、不思議と銀行を優先すべきだと考える人がいるものです。
でも私は反対の立場を取ります。
銀行の優先順位は、まだ融資を受ける必要がある局面と、その必要がもうない局面で大きく変わるはずです。
廃業のときは後者です。なのに銀行に媚を売りつづける意味がありますか。
銀行に伝えるのは、あと回しでいいでしょう。
それこそ、廃業の作業を終えてから事後的に伝えたっていいと思います。
それまで月々の返済さえキッチリしておけばいいだけです。
例外的に他者に先に告知する場合
ここまでは一般論。ここでのラストに応用編をお話しておきましょう。
もし契約解除の申し出に長い時間が必要な条件になっていて、タイミングを逃すと損失が大きくなるようなものがあれば、先に契約の相手方に廃業を知らせるのは一案です。
代表例は、テナントなどの賃貸借契約です。
6カ月以上だったりと、退去の事前告知ルールが長く設けられているケースが多いことでしょう。
契約解除に時間がかかる場合は、先に伝えることで余計な家賃や更新料の発生を防ぐことができる場合があります。
別の視点では、廃業に事業譲渡を併用するときです。
会社を清算する前に、営業権や顧客、従業員を他社に譲渡する。
こんなパターンの廃業は少なくありません。
この場合も例外的に、従業員より先に、事業譲渡の交渉相手に声をかけることになります。
事業は生き物です。そして事業譲渡では、事業を生きたまま引き継ぐことに意味があります。
廃業の事実が周知されれば事業が死んでしまうので、その前に、水面下で事業譲渡の交渉をするのが普通です。
これらの告知の順番の例外の場合、情報の漏洩にはより注意しなければいけません。